自然科学部生物班は,2018年1月から6月までに矢部川堰で特別採捕したシラスウナギ898尾を生物実験室で飼育し,その中で0.5g以上に成長したニホンウナギ稚魚を339尾,柳川市立図書館前の柳川掘割に放流した.
2018年のシラスウナギは世界的に不漁だったが,今年になり私たちは2017年のほぼ2分の1にあたる898尾を特別採捕した.そして,2017年から課題であった初期死亡率を低下させるために水槽内の水環境を改善させ,昨年の死亡率40%から2018年の死亡率を18%に低下させることに成功した.また,放流前に行っている石倉かごモニタリングで106mm,1.4gに成長した私たちが放流した稚ウナギを再捕獲することができた.これらの結果は,放流個体を増やすことができたことと,今まで不明であった柳川掘割でのニホンウナギの成長率を推定するための基礎データになるのではと考えている.再捕獲した個体は,肛門周りにイラストマー蛍光標識がなかったことで,初めて再捕獲された個体であることが判明した.この一連の研究で,私たちが目指している「柳川掘割をニホンウナギのサンクチュアリにする」ことで,ニホンウナギの資源量を増加させニホンウナギの絶滅を回避するとともに,柳川の観光資源と食文化を継承するために大きな前進を果たしたと考えている.
しかし,私たちが放流したニホンウナギの稚魚が柳川掘割のどのような場所で成長しているか,まだ不明であるためイラストマー標識で個体識別を行ったニホンウナギ稚魚の再捕獲個体数を増やすことが課題である.
今回放流した339尾は,0.5g以上で,8cm~11cmに成長した個体である.この339尾を含めた今までに放流した約2000尾のニホンウナギ稚魚が5年から15年,柳川掘割で成長した後で,もう一度生まれ故郷のマリアナ海溝周辺海域まで行って産卵してほしいと願っている.

石倉かごは,柳川市立図書館前の柳川掘割に2基設置している.石倉かごの周辺でニホンウナギの稚魚を393尾放流した.
 8月18日に設置した石倉かごの隣に新しい石倉かごを設置している様子.新しい石倉かごに昔設置していた石倉かごの石を移している.石は㎏ほどの大きさで,1基に160個~170個つめているので重労働である.11月17日は福岡女子大の大学生が2名,福岡市の中学生が1名,やながわ有明海水族館館長の小宮春平君が作業を手伝ってくれた.
 8月18日に設置していた石倉かごを覆う網を引き上げている様子.
 私たちが放流したニホンウナギ稚魚を1尾,再捕獲できた.このウナギ稚魚は,1.4g,106mmに育っていた.
 再捕獲したウナギは,これまでに37尾いたので,38尾目のウナギである.このウナギ稚魚にもイラストマ蛍光標識を肛門周りの6か所の決められた場所に施し,個体識別を目視で行うことができるようにした後に,再捕獲場所に放流した.
イラストマーで個体識別を行った個体が再々捕獲できると,柳川掘割での成長率や石倉かごの使い方,炭かとして使っているのか,また,たまたま石倉かごにいたのか(他の魚類やエビ類も石倉かごに集まるのでエサを捕獲するために利用しているのかなど,2基あるうちの別の石倉かごで捕獲されるなど)が推定できるので,自然環境でのニホンウナギの生態のデータが得られる.
 私たちは,放流前のニホンウナギの全個体の腹腔内に鉄片探知機に反応しやすい太さ0.2mm,長さ2mmのワイヤータグを装着しているので,私たちが放流したウナギであることが写真のように鉄片探知機を使うと分かる.鉄片探知機が反応したので,このウナギは私たちが放流したニホンウナギであると分かった.
 再捕獲した個体の肛門周りにイラストマーによる標識がないので,初めて再捕獲された個体であることも分かった.
 イラストマー蛍光標識を行っている様子.
この個体は2番にピンク,3番の位置に黄色で標識しているので,36番目の個体であることも理解できる.この個体は2018年11月17日に再放流した個体で,再放流時の石倉かごの位置と体長106mm,湿重量1.4gなどのデータを次に捕獲した時に比較することができる.
 イラストマー蛍光標識で個体識別を行った.36番の個体である.
 イラストマー標識を施した後,エアレーションを行います位から覚まし,再々放流を行った.この個体は東側の石倉かごで捕獲したので東側の石倉かごに放流した.
私たちの研究は笹川平和財団海洋教育パイオニアスクールプログラムの助成金を使用させていただき行っている.
また,11月17日の放流の様子は有明新報の11月19日(月)の2面に掲載された.

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